頬を、
髪を、
撫でるように触り、

私は目がみえない。


  盲 目
June in blind.


「よく降るね。」

雨のことなんかどうでもよかったが、ぼんやり見つめた窓際に座る彼と目が合ってしまい、
咄嗟にふった私の言葉は使い古されてとっくに擦り切れたもので、

「ああ、やんなるな。」

しかし彼は、しっかりと私に身体を向けて、雨を忌むように苦笑いをした。


六月。
この地方では、この月の下旬になると線の細かい霧雨が降るのだそうだ。
花は色づくのに、木々は萌えるのに、太陽が見えないだけでこうも印象が違える。

「こんなに部屋の中ばっかりいると、気が滅入っちまうな。」

活発な彼らしいひと言に、思わず笑った。

「ほんとだね。」
「出かけてみようか。」

すっと窓際のイスから腰を持ち上げ、私を見て提案する。
断る理由もない私は、彼のそばにいられるだけでよかった。


…*…*…*…*…*…


彼の体温を宿したままのイスと、しとしと鳴る窓際をあとにした私たちは、
安っぽい傘を水たまりに咲かせ、誰もいない田舎道を歩いた。

民家や商店街とは反対のこの道は、雨の音以外聞こえない。
見晴らしもやたらよく、魔物の気配もない。

「曇ってるのに、明るいね。」

小さい頃描いた曇り空は、灰色のクレヨンの使いどころだったが、違う。
薄く射した日の光は雨の粒に反射して辺り一面、白だった。

「ああ。すごいな。」

そう言った彼の声が、予想以上に遠くて、
怖くなってうつむいた顔を上げた。

「あ、カエルがいる。」

仲間の彼を思い出し、その小さな動物の滑稽な姿と重ねて笑う彼が、
遥か光の先にいた。

「…マール?」
「えっ。」

光の中の彼が、私の名前を呼んだ。
絵画のようなその姿に、いささかオーバーに驚く。
だって、絵はしゃべらないもの。

「どうした?」
「…ううん。平気。」

くるりとカエルから離れて、
ふたつの傘がぶつかる距離まで彼が近づいてきた。


それでも、
私は目がみえないみたいに、細かい字を読むように、
彼を見る。


「平気じゃないだろ。なんで泣いてるんだ。」
「え?」

びっくりして、頬を触る。
濡れている。でも、

「やだ、クロノ。ただの雨だよ。」

触った瞬間消えてなくなった涙とも雨粒とも思えないそれ。
雨だといったが、自信がない。

「そっか。ならいいんだ。」

眉をわずかに上げて、目元にしわを寄せて笑う。
彼のこの顔が、私は何より好きだ。


と、
ふたりで笑った瞬間、私の肩に傘からこぼれた雨粒が落ちた。

「冷えてる…。もう帰ろう。」

それを拭った彼は、上着をおもむろに脱いで私の頭にかぶせた。

「だめだよ、カゼひいちゃう。」
「大丈夫だから、持ってて。」

着ろと言ってもイヤだと拒むとあたりをつけて、彼は言葉を返した。
ここは、甘えてしまおう。


歩幅の違う彼は、私の2mほど先を行く。
紙を丸めたような音と、真っ白な盲目に、
私はまた怖くなって、

「手が冷たいから、つないでてもいい?」

彼の人差し指を少しつかみ、
その驚いた表情にうつむきながら訊いた。

言葉に形容しづらい、口の中で反響した言葉を肯定と取り、
奇妙な手のつなぎ方をしたまま宿へと引き返した。


頬を、
髪を、
撫でるように触る雨に彼を見失いそうになる。

だけど、
目が見えなくても、あなたが迎えに来てくれるようになったらいいと、
そのとき漠然と思った。






(ジューンブラインド。)

すごい突発。30分くらいで書きましたのでなんかおかしい。
ジューンブライドとジューンブラインド。

ダ ジ ャ レ か よ 。

カエルが友情出演。笑


吉野[o1/2o * 19:21]